ギリシア語文法 文字と音韻

◆目次



◆アルファベットの名称と発音

※古代アッティカ方言を復元したエラスムス式発音に基づく。
大文字 小文字 名称(ギ) 名称(古) 翻字 発音(古) 音韻の分類
Α α ἄλφα アルファ a ア、アー 単母音
Β β βῆτα ベータ b バ行 子音、唇音・黙音・中音
Γ γ γάμμα ガンマ g,n ガ行、ン 単子音、口蓋音・鼻音、γγ , γκ , γχ ,γξは鼻音化し「ング」と発音される
Δ δ δἐλτα デルタ d ダ行 単子音、歯音・黙音・中音
Ε ε ἒψιλόν エプシーロン e 単母音(短母音)
Ζ ζ ζῆτα ゼータ z ザ行 複子音、歯音、σ + δから合成
Η η ἦτα エータ ē エー 単母音(長母音)
Θ θ θῆτα セータ th サ行(タ行) 単子音、歯音・黙音・硬音
Ι ι ἰῶτα イオータ i イ、イー 単母音
Κ κ κάππα カッパ k カ行 単子音、口蓋音・黙音・軟音
Λ λ λάμβδα ランブダ l ラ行 単子音、口蓋音・鼻音
Μ μ μῦ ミュー m マ行 単子音、唇音・鼻音
Ν ν νῦ ニュー n ナ行、ン 単子音、歯音・鼻音
Ξ ξ ξῖ クシー ks,x クス行 複子音、口蓋音、κ + σから合成
Ο ο όμικρον オミークロン o 単母音(短母音)
Π π πῖ ピー p パ行 単子音、唇音・黙音・軟音
Ρ ρ ῥῶ ロー r,rh ラ行 単子音、歯音・流音
Σ σ,ς σῖgμα シーグマ s サ行 単子音、歯音・摩擦音、ςは語末にのみ用いられる形
Τ τ ταῦ タウ t タ行 単子音、歯音・黙音・軟音
Υ υ ὖψιλόν ユープシーロン y ユ、ユー 単母音、複母音の時は「ウ」と発音する
Φ φ φῖ フィー ph,f ファ行(パ行) 単子音、唇音・黙音・硬音
Χ χ χῖ キー ch,kh カ行 単子音、口蓋音・黙音・硬音
Ψ ψ ψῖ プシー ps プス行 複子音、唇音、π + σから合成
Ω ω ὦμἐgα オーメガ ō オー 単母音(長母音)

ギリシャ語のアルファベット(alphabet)は上記の24文字。
各字の名称はビザンチン時代に固定したものである。
聖書や古典の朗読には、大きく分けて二つの発音法がある。
ギリシャ人は「現代語式発音」(modern pronunciation)を用いる。
一方、古典アッティカ方言の推定発音である「エラスムス式発音」(Erasmian pronunciation)もある。
普通、ギリシャ語文法書や辞書などはエラスムス式発音で表記されている。


◆母音(vowels)

母音は、一文字で表す「単母音」と、二文字で表す「複母音」がある。
さらに単母音は短く発音する「短母音」(short vowels)と、長く発音する「長母音」(long vowels)に分けられる。


◇単母音(simple vowels)

次の7つが母音(単母音)である。
Α α アルファ a ア、アー 短長両方
Ε ε エプシーロン e 短母音
Μ η エータ ē エー 長母音
Ι ι イオータ i イ、イー 短長両方
Ο ο オミークロン o 短母音
Υ υ ユープシーロン y ユ、ユー 短長両方
Ω ω オーメガ ō オー 長母音


◇複母音(diphthongs)

次の11つが複母音である。発音上1母音として扱う。
ギリシャ語 翻字 発音
αι ai アイ
αυ au アウ
āi アー(イ)
ει ei エイ
ευ eu エウ
ηυ ēu エーウ
ēi エー(イ)
οι oi オイ
ου ou ウー
ōi オー(イ)
υι yi ユイ


◇イオタ下付母音(iota subscript)

※複母音のうちᾳ , ῃ , ῳは準複母音(improper diphthongs)で、イオタ下付母音と呼ばれる。
ᾳ , ῃ , ῳの下書きの記号はイオータ(ι)の文字である。
音韻論上、アー(イ)、エー(イ)、オー(イ)であるが、実際は発音されない。
また、固有名詞等でイオタ下付母音を大文字で表記する時は、
大文字の真下ではなく、主母音の右に並記させる。これを「並記のイオタ」(iota adscriptum)と呼ぶ。

[例] θεῷ→ ΘΕΩΙ

◇気息記号(breathings)

母音で始まる単語とρで始まる単語の語頭には、気息記号が付けられる。
語頭の母音が有気音として[h]の音を伴って発音されるか、伴わず無気音かを区別する。

◇硬気息(rough breathings)

硬気息記号()は[h]の音を伴って「ハ」と発音する。

◇軟気息(smooth breathings)

軟気息記号は()は[h]の音を伴わず「ア」と発音する。

◇分離記号

二重母音でも別々に発音する場合は、分離記号を「ϊ」のように文字の上に付ける。


◆子音(consonants)

母音以外の17文字が子音である。子音は母音と結合して発音する。
以下の表は音韻上の分類である。
黙音 流音 摩擦音 複子音
軟音 中音 硬音 流音 鼻音
唇音 π β φ μ ψ
口蓋音 κ γ χ γ ξ
歯音 τ δ θ λ , ρ ν σ(ς) ζ

縦の項目(唇音、口蓋音・・・)は発音する際に用いる器官による分類である。
横の項目(黙音、流音・・・)は音の響きによる分類である。

◇唇音(labials)

下唇を用いて調整する音。

◇口蓋音(palatals)

舌の上面と口蓋との間で調整する音。

◇歯音(linguals)

上前歯の裏または先と舌尖または舌端で調音して出す音。

◇黙音(mutes)

発音の直前に一瞬音声が途切れて無音になる音。
黙音はさらに軟音、中音、硬音に分類される。
•軟音(無声音)(tenuis)
•中音(有声音)(tenuis aspirata)
•硬音(有気音)(media)

◇流音(liquids)

舌先を上あごに近づけて出す音。

◇鼻音(nasal)

鼻の通気のみで出す音。

◇摩擦音(sibilant)

空気の摩擦を利用して出す音。

◇複子音(double consonants)

二つの子音を合成したような音。

※同じ子音が二回連続する場合は促音「ッ」で発音する。
[例] Ἀβαδδών(アバッドーン)


最終更新:2017年06月11日 02:02