ギリシア語文法 前置詞(preposition)

◆目次



前置詞とは、名詞の前に置いて動詞や名詞を限定するもの。
前置詞には本前置詞(proper prepositions)と準前置詞(improper prepositions)がある。
本前置詞は全部で18個ある。
準前置詞とは、副詞であるものが前置詞としても用いられるものである。


◆前置詞の基本的概念


前置詞を覚える際には、前置詞の基本的な概念を以下の図表にて覚えるとよい。

•ギリシャ語の前置詞の図表


◆前置詞の格


前置詞は1つの格しか取らないものと、2つ、3つの格で取るものがある。
複数の格で取るものは、その格によって意味が変化する。

διά(ディア)という前置詞を例に説明しよう。
この前置詞は、2つの格(属格と対格)を取る。

属格では、
δια των προφητων その預言者たちを通して (ローマ1:2)
対格では、
δια το εργον αυτων その彼の働きゆえに (テサ一5:13)

と意味が変化する。


◆前置詞における格の意味


前置詞が取る格には、属格と与格と対格があり、格によって意味が変化する。
前置詞におけるそれぞれの格の基本的な概念は、

属格 → ある場所からの移動(分離)、同等(補語、~の)
与格 → ある場所に何かが置かれている状態、間接目的語(~に)
対格 → 運動の方向、直接目的語(~を)

である。
前置詞の基本的概念と共に、格の基本的概念をイメージすると、意味の違いをつかみやすい。


◆前置詞句の働き


前置詞がある2語以上のかたまりで構成されるものを「前置詞句」(prepositional phrases)と呼ぶ。
前置詞句の働きには、①動詞を限定する副詞的用法、②名詞を限定する形容詞的用法がある。

•副詞的用法

[例] ευχαριστω δια Ιησου Χριστου 私はイエス・キリストを通して感謝する(ローマ1:8)

•形容詞的用法

[例] υμιν τοις εν Ρωμη ローマにいるあなた方(ローマ1:3)

•前置詞句の前に定冠詞を置けば、全体が名詞化される。

[例] το κατα σαρκα 肉に関する事柄(ローマ9:5)

•複数の前置詞句が一つの名詞や動詞を修飾することが可能である。

[例] του ορισθεντος υιου θεου εν δυναμει κατα πνευμα αγιωσυνης εξ αναστασεως νεκρων.(ローマ1:4)

(死者の復活から、聖なる霊に従って、力において、神の子と定められた方)


◆合成動詞(compound verb)


本前置詞は動詞の前綴りとなって合成動詞(複合語)を作る。
その際、接頭語となる前置詞が動詞に加味する意味は、原則として本来副詞として持っていた意味である。
このため、加味される意味は名詞に前置されるときの意味とは異なる場合がある。
また、前置詞の意味は何も付け加えずに、その動作が徹底的に行われることを表現する(完結的強意)こともある。
合成動詞を作る際にどのような意味が加味されるかは、下の前置詞一覧(合成動詞の加意)の項目を参照せよ。

[例] ανα(上へ)+βαινω(歩く)=αναβαινω(上る)


◆前置詞一覧


※本前置詞のみ(準前置詞は除外)。
1つの格とだけ用いられるもの
ギリシャ語 発音 基本的意味 用いる格 意味 合成動詞での加意 ストロングナンバー
ἀνά アナ 上へ、上方に、~に沿って(上へ) +対格 ①~の上方に、~に沿って(上へ) 上へ、元へ、再び G303
②~ずつ、~ごとに
ἄνευ アネウ +属格 ~なしに、~なしで、~に知られないで G427
ἀντί アンチ 向き合って、面して、向かって +属格 ①~の代わりに、~に代わって、~の返しに、~の報いに、~と引き替えに 向き合って、逆らって、返して G473
②~のために
③(接続詞句として用いられ、後に続く節を受けて)~だから、~の故に
ἀπό アポ 分離 +属格 ①(位置的に)~から(離れて、去って) 離して・断ち切って、元へ(戻して)、完結的強意 G575
②(時間的に)~から
③(部分を表わす用法)~のうちから、~のうちの
④~から(~される)、~に(~される)
⑤~(という理由)から、~の故に
⑥~の距離にわたって
⑦ヘブライ的表現
εἰς エイス 中へ、内部へ +対格 ①~の中へ、の間へ、~へ(と) 中へ G1519
②~(に至る)まで、~までずっと、~中(じゅう)、~の間、~にわたって
③~(に至る)まで、~(の限度)まで、~ほど(程度、限度を表す)
④~の中に、~で
⑤~に対立して、に逆らって、に対して、に向かって
⑥~について、~に関連して
⑦~に(なる)、~に(する)
⑧~のために、のための、の目的で
⑨~の故に、~の理由により、~の動機により、を根拠として
ἐκ,ἐξ エク、エクス 中から外へ +属格 ①(出発点・分離・源泉等)~の中から、の中から外へ 外へ、去って、断って、完結的強意 G1537
②(動作の出発点、特に受動動作の行為者)~によって、による
③(手段・方法・材料・条件等)~で、によって、を使って
④(源泉・よって立つ根本原理等)~に従って、を基本原理として、に発して
⑤(理由・原因)~の故に、のために
⑥(部分的)~に属する、の(中の)、(全体)の中から(の)、のうちの
⑦(左右の位置)(右、左)側に
ἐν エン 内部に、中に +与格 ①(場所)~で、の中に、の上に、~に、のところに、のそばに 性質の内在、内部に G1722
②(状態・信仰的・霊的内在)~の中に、~の内に
③(時間)~のうちに
④(原理・影響・勢力の圏内)~の下に
⑤(関係、場合)~にとっては
⑥(内訳・場合)~よりなる
⑦(運動を表す動詞と共に、εἰς に近い意味に)~の中へ
⑧(理由・根拠)~のことで、~により(に基づいて、の故に)
⑨(ヘブライ語法の影響)
⑩(行為者、命と存在の根拠をなす者)~によって
⑪(手段・道具・媒介・携帯)~で、~でもって、~によって、~を持って、~を携えて
πρό プロ 前に +属格 ①(位置的に)~の前に 前に、先に G4253
②(時間的に)~の前に、~(だけ)前に
③(重要性において)~よりも先に、~よりまず第一に
σύν シュン 同伴、交わり、包含 +与格 ①(同伴、同行、交際、共労)~と一緒に、~を連れて、~に同行して、~と交わって 同行して、共に、協力して、集まって、完結的強意 G4862
②(思想、立場、経験等の共通)~と一緒になって、~と同じ立場で、~と同類で、~の一味で
③(連続、追記、付加)また~も、そして~と、~のほかにも、~に加えて

2つの格と用いられるもの
ギリシャ語 発音 基本的な意味 用いる格 意味 合成動詞での加意 ストロングナンバー
διά ディア 数の2、~を通って、~を通じて +属格 ①[場所]~を通って、通り抜けて (二つの)間を、通過して、分離して、継続して、完結的強意 G1223
②[時間]~を通じて、~中ずっと(続いて)
③[手段・媒介・原因・動作者]~を通して、~を通じて、~の手段により、~の働きにより、~によって
+対格 ①~の理由により、~の故に
②~のために、~の利益のために、~を実現するために、~が原因で
③(対格ではごく稀)~を通って
κατά カタ 下へ +属格 ①(下方へ分離)~から下へ 下へ、征服(支配)して、敵対して、完結的強意 G2596
②~の上へ下って、下って、向かって、全体を通して
③(反対・敵意)~に逆らって、反対して
④(誓言)~に誓って、にかけて、をさして
+対格 ①(対向、接近)~の向かい側に、のあたりに
②(仲間・同志)~の仲間の間で、の中で(の)
③(配分的意義)~ごとに、~ずつ、毎~
④(依拠・合致・調和)に従って、基づいて、のやり方で、流儀で
μετά メタ 真ん中に +属格 ①(仲間)の間に、~の中に、の真ん中に 共に、後から、変えて G3326
②(随伴)~と共に、と一緒に、を離れずに、を連れ(同行し)て
③~と(の関係において)、に対して
④~によって、をもって、で
+対格 ①(時間的に)~のあとで、ののちに
②(稀に空間的に)~のうしろに、の後方に
περί ペリ 周辺に +属格 ①~について、~に関して、~に言及して 周囲に、まわりを G4012
②~のために、~のための、~の利益のために(の)
+対格 ①~の周りに、~の周りを(取り巻いて、回って)、~の周りの
②~について、関して、~(のこと)において
③大体、約、~頃
ὑπέρ ヒュペル 超えて +属格 ①(~の利益)のために、~を守るために 上に、超えて、向こうへ、過度に、代理して、完結的強意 G5228
②~の代わりに、~に代わって、身代わりに
③~について、~に関して
+対格 ①~を超えて(超越して)、~より上位で、~以上に
②~より以上に(甚だしく)
③~よりも(比較級と)
ὑπό ヒュポ 下に +属格 ①~によって(受動相の動詞と) 下に、征服して、服従して、密かに、僅かに G5259
②~によって、~から(受動相の動詞がなくても受動的意味が文中の他の語に含まれる場合)
+対格 ①~の下に、~の下へ(静止・運動とも)
②(下の方)~のあたりに
③~頃に(時間について)

3つの格と用いられるもの
ギリシャ語 発音 基本的な意味 用いる格 意味 合成動詞での加意味 ストロングナンバー
ἐπί エピ 上に +属格 ①(接触)上に、に 上へ、上に、追加して、完結的強意 G1909
②(近接、位置)~の傍らに
③(管理・監督・権威)~の上に
④(依拠・関連・言及)~に基づいて
⑤(時間)~の時に
⑥(面前)~の面前で
+与格 ①(位置)~の上に、に、の所(側)に、の前で、の中で、に入れて
②(管理・監督・権威)~の上に
③(追加)~に加えて
④(関連・言及)~に関して、~のことで
⑤(根拠・理由・依拠)~の理由で、~の故に、~を根拠に、~によって
⑥~ので
⑦(目的・結果)~との目的で、~という結果を伴って
⑧(機会・時間)~たびごとに
⑨(模写・原形)~かたちで、~にちなんで
+対格 ①(運動・方向)上に、上へ、~へ、上まで、上を
②(位置)~に
③(追加)~に更に
④(対抗・対立)~に向かう、~に対立し、~に逆らって
⑤(数・程度・限度・回数)~度
⑥(期間)~間
⑦(時間)~の時間に
⑧(関連・言及)~のことで、~について
⑨(根拠・理由)~の故に
⑩(目的・結果)~のために
παρά パラ 側(そば)に、傍らに +属格 ~(の)側(そば)から(離れて、発して)、~の所から、~から 側に、側へ、側から、誤って、完結的強意 G3844
+与格 ①~の所で、~の家で
②~の側に
③~のいる所で、(~の)面前で、~の目に、~の判断に(おいて)
+対格 ①(運動)~の側へ
②(静止)側に、すぐ近くに、~沿いの
③(運動)~に沿って、~沿いに
④~を超えて(それ以上に)、~よりむしろ、~より
⑤~より外の、~とは違って(違った)、~に反して(反した)、~にそむいて、~と反対に
⑥~の故に、~の理由で
πρός プロス 近くに、面して +属格 ①~の見地から有利な、~のためになる 向かって、近くへ(寄せて)、逆らって、完結的強意 G4314
+与格 ①~のあたりに、の近くに(静止)
②(接近運動)~のあたりへ
+対格 ①~に向かって、~(の方、の所)へ(運動)
②~の所に、~のあたりに(静止)
③~に対して(敵対・有効)
④(人格関係・交流・接触)~と行き来して、~と常に接触して、~と密なる交わりの中に(一緒に)
⑤(関連・目標)~にとって、~に関連して
⑥(目的)~するために、~する目的で
⑦(原因)~の故に、~が原因で、~のために
⑧(時間)~に近づいて、~の間だけ
⑨~に基づいて、~に従って
⑩~に比べて


最終更新:2017年06月11日 02:13