ギリシア語文法 代名詞(pronouns)

◆目次




◆人称代名詞(personal pronouns)


一人称 ἐγώ(エゴー)「私は」、二人称 σύ(シュー)「あなたは」
一人称 二人称
単数 主格 ἐγώ σύ
属格 ἐμοῦ / μοῦ σοῦ / σου
与格 ἐμοί / μοι σοί / σοι
対格 ἐμέ / με σέ / σε
複数 主格 ἡμεῖς ὑμεῖς
属格 ἡμῶν ὑμῶν
与格 ἡμῖν ὑμῖν
対格 ἡμᾶς ὑμᾶς

人称代名詞は元々性別を持たない。
また本来の三人称代名詞はσὗ(ヒュー)であったが、
強意代名詞αὐτός(アウトス)が三人称代名詞の役割を果たすようになった。
そのため、三人称代名詞だけは性別が区別される。


◇主格の用法


主格形は「~自身」「他ならぬ」という意味を強調する場合に限って用いられる。
なぜなら、主格の表す意味は動詞の人称語尾に含まれているので、わざわざ代名詞を付ける必要がないから。

[例] ἐγὼ εἰμι ἡ ὁδὸς καὶ ἡ ἀλήθεια καὶ ἡ ζωή.

   (他ならぬ)私こそ道であり、真理であり、命である。(ヨハネ14:6)


◇斜格の用法


斜格(主格以外の格)は、通常アクセントのない方(右側の語形)を用いる。
これらは後倚辞なので、直前の語にアクセントを奪われ、無アクセントとなっている。
斜格は通常強意を伴なわずに用いられる。

• 属格は述語的位置(冠詞の組み合わせの外)に置かれる。

[例] ὁ κύριος μου καὶ ὁ θεός μου.

   私の主、私の神!(ヨハネ20:28)

• 属格は通常名詞に後置されるが、強調する場合は前に出る(述語的位置であるのは変わらない)。

[例] ὑμῶν τὸ πρόσωπον.

   (他ならぬ)あなた方の顔を。(テサ一3:10)

• 後倚辞ではない方(左側の語形)は強調する場合や、前置詞の後にきた場合に用いられる。

[例] ὁ κύριος μετὰ σοῦ.

   主が(他ならぬ)あなたと共に。(ルカ1:28)

[例] ὁ πατὴρ ἐν ἐμοί.

   父が私の内に。(ヨハネ14:11)


◆強意代名詞(三人称代名詞)(intensive pronouns)


αὐτός(アウトス)「彼は、彼自身は」
男性 女性 中性
単数 主格 αὐτός αὐτή αὐτό
属格 αὐτόῦ αὐτῆς αὐτοῦ
与格 αὐτῷ αὐτῇ αὐτῷ
対格 αὐτόν αὐτήν αὐτό
複数 主格 αὐτοί αὐταί αὐτά
属格 αὐτῶν αὐτῶν αὐτῶν
与格 αὐτοῖς αὐταῖς αὐτοῖς
対格 αὐτούς αὐτάς αὐτά

本来の三人称代名詞はσὗ(ヒュー)であったが、
聖書時代には強意代名詞であるαὐτός(アウトス)がその役割を担うようになった。
したがって、三人称代名詞だけは性別がある。
先行詞と性・数・格において一致した語形を用いる。


◇用法


• ①強意の伴わない三人称代名詞として用いられる(主格も強意は伴わず用いられる)。

 [例] αὐτῶν καὶ ἡμῶν.

    彼らと私たちの。(コリ一1:2)

 属格では述語的位置(冠詞の組み合わせの外)に置かれる。

 [例]  ἡ χεῖρ αὐτοῦ.

     彼の手が。(マルコ3:5)

• ②強意代名詞として、他の何者でもなく特にそのものであることを強調する。

 属格的位置(冠詞の組み合わせの中)では「同じ~」という意味が強調される。

 [例] τὸ αὐτὸ πνεῦμα τῆς πίστεως.

    信仰の同じ霊を。(コリ二4:13)

 述語的位置(冠詞の組み合わせの外)では「~自身」「他ならぬ」という意味が強調される。

 [例] αὐτὸς δὲ ὁ Ἰωάννης.

    さて、(他ならぬ)ヨハネ自身は。(マタイ3:4)

 属格では通常先行詞に後置されるが、強調する場合は前に出る。

 [例] αὐτοῦ τὸν ἱμάντα τοῦ ὑποδήματος.

    彼のサンダルのひもを。(ヨハネ1:27)


◆所有代名詞(所有形容詞)(possessive pronouns)


εμός(エモス)「私の」
男性 女性 中性
1単 ἐμός ἐμή ἐμόν
2単 σός σή σόν
1複 ἡμέτερος ἡμετέροα ἡμέτερον
2複 ὑμέτερος ὑμέτέροα ὑμέτερον


◇用法


所有代名詞というより、所有形容詞として機能する。
人称代名詞の属格と同じように「私の、あなたの」という所有の意味だが、
人称代名詞よりも「他の誰でもない~の」という強調が強くなる。
三人称語形の欠如は、普通再帰代名詞の属格によって補われる。


◆指示代名詞(demonstrative pronouns)


主要な指示代名詞は二つ οὗτος(フートス)と ἐκεῖνος(エケイノス)がある。
οὗτοςは「近称代名詞」であり、ἐκεῖνοςは「遠称代名詞」である。


◇指示代名詞①


οὗτος(フートス)「これ、この」
男性 女性 中性
単数 主格 οὗτος αὕτη τοῦτο
属格 τούτου ταύτης τούτου
与格 τούτῳ τούτῃ τούτῳ
対格 τοῦτον ταύτην τοῦτο
複数 主格 οὗτοι αὕται ταῦτα
属格 τούτων τούτων τούτων
与格 τούτοις ταύταις τούτοις
対格 τούτους ταύτας ταῦτα

三人称代名詞の女性単数主格(αὐτή)と女性複数主格(αὐταί)はアクセントが違うだけなので注意。


◇用法


「すでに述べたところの」という意味で、原則としてすでに言及した名詞を先行詞とする。
しかし、これから述べようとするものを代表する場合もある。
この代名詞は「近称代名詞」で、話者から比較的近い距離にある対象や文脈上近くにある語、
また思考の上で近いつながりを持つ概念を指示し強調する役割を果たす。
また、指示代名詞(これ)としてだけでなく、指示形容詞(この)としても用いられる。
先行詞と性・数・格において一致した語形を用いる。

• ①現に話者の目の前や近くにあるものに指して。

[例] οὗτος ἐστιν ὁ υἱός μου.

   これは私の子である。(マタイ3:17)

• ②目の前の人に対する軽蔑や感嘆を表す。

[例] τίς ἐστιν οὗτος ・・・;

   こいつは一体何様だ(ルカ5:21)

[例] οὗτος ἐστιν ὁ προφήτης Ἰησοῦς.

   この方は預言者イエスだ!(マタイ21:11)

• ③すぐ前に述べたもの、あるいは語句が介在しても前文脈の主要主題を指して。

[例] οὗτος ἐστιν ὁ λίθος.

   (前述した)この方がその石である。(使徒4:11)

• ④先行する名詞節や文脈全体を指して。

[例] Μετὰ ταῦτα.

   これらのことの後。(ヨハネ5:1)


◇指示代名詞②


ἐκεῖνος(エケイノス)「あれ、あの」
男性 女性 中性
単数 主格 ἐκεῖνος ἐκείνη ἐκεῖνο
属格 ἐκείνου ἐκείνης ἐκείνου
与格 ἐκείνῳ ἐκείνῃ ἐκείνῳ
対格 ἐκεῖνον ἐκείνην ἐκεῖνο
複数 主格 ἐκεῖνοι ἐκεῖναι ἐκεῖνᾰ
属格 ἐκείνων ἐκείνων ἐκείνων
与格 ἐκείνοις ἐκείναις ἐκείνοις
対格 ἐκείνους ἐκείνᾱς ἐκεῖνᾰ


◇用法


これは「遠称代名詞」で、話者から比較的離れた位置にある対象、文脈上やや離れた位置にある語、
また思考の上で間接的つながりを持つ概念を指示し強調する役割を果たす。
また、指示代名詞(あれ)としてだけでなく、指示形容詞(あの)としても用いられる。
先行詞と性・数・格において一致した語形を用いる。

[例] ἐκείνοις δὲ οὐ δέδοται.

   しかし、あの人たちには許されていない。(マタイ13:11)


◇その他の指示代名詞


上記の二つ以外の指示代名詞
• ὅδε(ホデ) この、次に述べるところの
• τοιοῦτος(トイウートス) こんな、このような、そのような性質・状態・内容の
• τοσοῦτος(トスートス) こんなに大きい、それほど多い
• τηλικοῦτος(テーリクートス) こんなに大きい、甚だしい
• ὁ(ホ) 冠詞も指示代名詞として用いられることがある。



◆疑問代名詞(interrogative pronouns)


τίς(ティス)「誰~か?、どれ~か?、何~か?、どんな~か?」
男性・女性 中性
単数 主格 τίς τί
属格 τίνος τίνος
与格 τίνι τίνι
対格 τίνα τί
複数 主格 τίνες τίνα
属格 τίνων τίνων
与格 τίσι(ν) τίσι(ν)
対格 τίνας τίνα

疑問代名詞は常にτι-の上にアクセントが付く。
またτίς、τίのアクセントは、次の語が来ても重アクセントに変わらない。


◇用法

普通は疑問代名詞として用いるが、疑問形容詞としても用いられる。

• 疑問代名詞として

[例]  τίς εἶ;

    あなたは誰か?(ヨハネ1:22)

• 疑問形容詞として

疑問形容詞の場合は、相手の名詞と性・数・格において一致して用いる。

[例] τίνα οὖν καρπὸν εἴχετε τότε;

   それでその時、あなた方はどんな実を持っていたのか?(ローマ6:21)


◆不定代名詞(indefinite pronouns)


τὶς(ティス)「だれか、なにか、ある(人、もの)」
男性・女性 中性
単数 主格 τὶς τὶ
属格 τινός τινός
与格 τινί τινί
対格 τινά τὶ
複数 主格 τινές τινά
属格 τινῶν τινῶν
与格 τισί τισί
対格 τινάς τινά

疑問代名詞とアクセントのみが違うので注意。


◇用法


不定代名詞は基本的に特定できない「だれか」「なにか」「ある(人、もの)」という意味で用いる。
不定代名詞としても、不定形容詞としても用いられる。
• 不定代名詞として

[例] τινὲς δὲ ἐξ αὐτῶν.

   しかし、彼らの中からある者たち(幾人か)は。(ヨハネ11:46)

• 不定形容詞として
修飾する名詞に性・数・格において一致して用いる。

[例] ἱερεύς τις.

   ある祭司が。(ルカ1:5)


◇その他の用法


• ①「何か重要な者(もの)」を指す。

[例] οὔτε ὁ φυτεύων ἐστιν τι οὔτε ὁ ποτίζων.

   植える者も水を注ぐ者も重要なものではない。(コリ一3:7)

• ②不定量や概数を表す。「幾人かの」「若干」。

[例] τινὲς δὲ ἄνδρες.

   使徒たちの幾人かは。(使徒17:34)


◆関係代名詞(relative pronouns)


ὅς(ホス)「~ところのもの」
男性 女性 中性
単数 主格 ὅς
属格 οὗ ἧς οὗ
与格
対格 ὅν ἥν
複数 主格 οἵ αἵ
属格 ὧν ὧν ὧν
与格 οἷς αἷς οἷς
対格 οὕς ἇς


◇用法


関係代名詞に導かれる節は、先行詞を修飾する形容詞節を作る。
関係代名詞は先行詞と性と数において必ず一致する。
しかし、格は関係代名詞自らがその節で果たす格を取るのが原則である。

[例] καὶ ἐστὲ ἐν αὐτῷ πεπληρωμένοι, ὅς ἐστιν ἡ κεφαλὴ.(コロ2:10)

   [翻訳例1] また、あなた方は彼にあって充ち満ちている。彼は全ての頭である。

   [翻訳例2] また、あなた方は全ての頭である(ところの)彼にあって充ち満ちている。

関係代名詞はὅςで、先行詞はαὐτῷ。
関係代名詞は先行詞の性と数と一致して男性・単数となっている。
しかし、格は先行詞は与格、関係代名詞は主格である。
関係代名詞によって、先行詞(彼)を説明する形容詞節(全ての頭である~)を作っている。


◇格の同化


[例]  πίῃ ἐκ τοῦ ὕδατος οὗ ἐγὼ δώσω αὐτῷ.

   私自身が彼に与える(ところの)水から飲む。(ヨハネ4:14)

主文は「その(水)を私自身が彼に与える」なので、原則では関係代名詞は対格となるべき。
しかし、先行詞(水)と同格となっており、属格となっている。
これを「関係代名詞の格の同化」と言う。
翻訳する時には、本来の格の機能を考える必要があるので注意。


◇格の逆の同化


[例] τὸν ἄρτον ὃν κλῶμεν, οὐχὶ κοινωνία τοῦ σώματος τοῦ Χριστοῦ ἐστιν;

   私たちが割く(ところの)パンは、キリストの体の交わりではないか。(コリ一10:16)

「格の同化」とは逆に、先行詞の方が関係代名詞と同格になることもある。
主文は「その(パン)を私たちは割く」なので、関係代名詞は対格となっている。
先行詞(パン)は「そのパンは、キリストの体の交わりではないか」という文なので本来主格となっているべきである。
しかし、先行詞はここでは関係代名詞と同格の対格となっている。
これを「関係代名詞の逆の同化」と言う。
翻訳する時には、本来の先行詞の機能を考える必要があるので注意。


◇その他の用法


• 先行詞が関係代名詞の後に来ることがある。

• 先行詞が文脈から自明であれば、先行詞は省略されることがある。


◆不定関係代名詞(indefinite relative pronouns)


ὅστις(ホスティス)「~ものは誰でも、~ものは何でも」
男性 女性 中性
単数 主格 ὅστις ἥτις ὅ τι
属格 οὗτινος (ὅτου) ἧστινος οὗτινος (ὅτου)
与格 ᾧτινι (ὅτῳ) ᾗτινι ᾧτινι (ὅτῳ)
対格 ὅντινᾰ ἥντινᾰ ὅ τι
複数 主格 οἵτινες αἵτινες ἅτινᾰ (ἅττᾰ)
属格 ὧντινων (ὅτων) ὧντινων ὧντινων (ὅτων)
与格 οἷστισι(ν) (ὅτοις) αἷστισι(ν) οἷστισι(ν) (ὅτοις)
対格 οὕστινᾰς ἅστινᾰς ἅτινᾰ (ἅττᾰ)


◇用法


不定関係代名詞の古典における本来の用法は、「~者は誰でも」「~ものは何でも」を表現する。
不定の意味は「~するような(種類の)」という性質限定に適用されることもある。
また不定の意味合いが失われて、関係代名詞と同じような意味で用いられることもある。


◆再帰代名詞(reflexive pronouns)


ἐμαυτοῦ(ヘマウトゥー)「~自身」
一人称 二人称 三人称
男性 女性 男性 女性 男性 女性 中性
単数 属格 ἐμαυτοῦ ἐμαυτῆς σεαυτοῦ σεαυτῆς ἑαυτοῦ ἑαυτῆς ἑαυτοῦ
与格 ἐμαυτῷ ἐμαυτῇ σεαυτῷ σεαυτῇ ἑαυτῷ ἑαυτῇ ἑαυτῷ
対格 ἐμαυτόν ἐμαυτήν σεαυτόν σεαυτήν ἑαυτόν ἑαυτήν ἑαυτό
複数 属格 ἡμῶν αὐτῶν ἡμῶν αὐτῶν ὑμῶν αὐτῶν ὑμῶν αὐτῶν ἑαυτῶν ἑαυτῶν ἑαυτῶν
与格 ἡμῖν αὐτοῖς ἡμῖν αὐταῖς ὑμῖν αὐτοῖς ὑμῖν αὐταῖς ἑαυτοῖς ἑαυταῖς ἑαυτοῖς
対格 ἡμᾶς αὐτούς ἡμᾶς αὐτάς ὑμᾶς αὐτούς ὑμᾶς αὐτάς ἑαυτούς ἑαυτάς ἑαυτά

一人称と二人称の複数形は、人称代名詞と強意代名詞を併用して代用する。


◇用法


文の中で主語自身を指す代名詞で「~自身」を意味する。
ギリシャ語では動詞の中動相で同じことを表現できるが、
動詞の中動相が動作者に注意を引くのに対して、再帰代名詞は動作そのものを強調する。


◆相互代名詞(reciprocal pronouns)


ἀλλήλων(アッレーローン)「互いに」
男性 女性 中性
複数 属格 ἀλλήλων ἀλλήλων ἀλλήλων
与格 ἀλλήλοις ἀλλήλαις ἀλλήλοις
対格 ἀλλήλους ἀλλήλᾱς ἄλληλᾰ

単数形、主格はない。


◇用法

複数の主語が相互間で動作を交換し、
互いに他の動作を受けているような関係を表現する代名詞で「互いに」を意味する。


最終更新:2017年06月11日 02:07