ギリシア語文法 名詞(noun)

◆目次




◆名詞の構造


名詞は性・数・格によって語尾変化する。
性は男性・女性・中性である。
数は単数・複数・双数である。
格は主格・属格・与格・対格・呼格の五つの変化形がある。
文法的には、属格をさらに分けて奪格を加え、
与格をさらに分けて位格と具格を加えることができる。


◆性(gender)


名詞は男性(mansculine)・女性(feminine)・中性(neuter)いずれかの性が語形によって決まっている。
これらの性別は文法的なものであり、生物学的な性とは直接関係ははない。
名詞は、第一変化、第二変化、第三変化の三つの変化に大別されるが、
男性名詞は主に第二変化(-ος型)、
女性名詞は主に第一変化(-αか-η型)、
中性名詞は主に第二変化(-ον型)である。


◆数(number)


名詞は数によって語尾変化する。
数は単数(singular)・複数(plural)・双数(dualis)である。
主語になる名詞の数は、動詞の数と一致していなければならない。
ただし、中性複数の主語は単数形の動詞で受けるのが原則である。
双数は単なる二つではなく、二対になるものを指すが、コイネー時代に双数は廃れた。


◆格(case)


名詞は格によっても語尾変化する。
格とはその名詞が文中で修飾する語とどのような関係かを示す機能である。
主格(nominative)、属格(genitive)、与格(dative)、対格(accsative)、呼格(vocative)の五つである。
コイネー以前には、さらに、奪格(ablative)、位格(locative)、具格(instrumental)が存在した。
コイネーギリシャ語では、奪格は属格に吸収され、位格と具格は与格に吸収された。
奪格は属格と同じ語形で、位格と具格は与格と同じ語形であるので、どの格の意味かは文脈によって考えなければならない。
主格と呼格以外の格を総じて「斜格」(oblique)と呼ぶ。

簡単な表にすると以下のようになる。
主格 ~は、~が
属格 ~の
与格 ~に
対格 ~を
呼格 ~よ!
さらに奪格・位格・具格を加えたもの。
主格 ~は、~が 第一格
属格 ~の 第二格
奪格 ~から、~より
与格 ~に 第三格
位格 ~の所で、~において
具格 ~で、~と
対格 ~を 第四格
呼格 ~よ! 第五格


◇主格(nominative)


主語、または補語となる格。「~は」「~が」

用法
• 主語「~は」「~が」
• 補語「神は愛である」
• 名称「アポリオンという(名)」
• 挿入「彼らは―もう三日間になるが―」
• 手紙の発信者「パウロから」
• 呼格の代用「我が神よ」


◇属格(genitive)


属する類を表す格。「~の」

用法
• 形容詞的属格「~の」
• 所有・所属「~のもの」「~に属する」
• 血縁・婚姻関係「~の子」「~の妻」
• 内容の言い換え「~という」
• 目的語的属格「~への」
• 期間「~の間に」
• 場所「~の所を」


◇奪格(ablative)


源泉や起点となっていることを表す格。「~から」「~より」
語形は属格と同じ。

用法
• 分離「~から(離れて)」
• 源泉「~からの」
• 行為者「~による」
• 比較級「~よりも」


◇与格(dative)


人格関係や利害関係を表す格。「~に(対して)」「~に(とって)」

用法
• 間接目的語「~への」「~に対する」
• 判断者「~にとって」
• 所有者「~の(持っている)」
• 接近・遭遇「~に(近づく・会う)」
• 利害関係「~ために」
• 関連「~について」「~に関して」


◇位格(locative)


空間的・時間的な位置を表す格。「~の所で」「~において」
語形は与格と同じである。

用法
• 場所「~の所で」
• 時点「~の時間に」


◇具格(instrumental)


道具や手段として用いることを表す格。「~で」「~と」
語形は与格と同じである。

用法
• 随伴・共有「~と共に」
• 関連「~について、~という点では」
• 類似「~のような」
• 手段・材料「~で」
• 原因・理由「~のゆえに」


◇対格(accusative)


他動詞の直接目的語を表す格。「~を」

用法
  • 直接目的語(外的客語)「~を」
  • 誓言の対格「~にかけて(誓う)」
  • 動詞内容の対格(内的客語)動詞の中に含まれる意味を反復する対格 例「成長を成長する」(コロ2:9)
  • 二重対格「OをCに(と)する」
  • 副詞的対格
    • 関連「~の点において、~に関して言えば、~に関する限り」
    • 空間的範囲・程度・限度「~辺り、~くらい」「~の間、~の時に、~の日に」
    • 対格主語(不定詞の意味上の主語となる)


◇呼格(vocative)

呼びかけに用いる格。「~よ!」


最終更新:2017年06月11日 02:05