<プロローグ>

鉛色の空によどんだ雲が立ち込める。青白く光る月光さえ遮断されてしまった。

 そんな空間に突如浮かび上がったのは激しく燃える火柱。白い薔薇の花弁が焦げ、次々と舞い降りてくる。その様子を一人の少年は静かに見ていた。まるで、こうなることが最初から分かっていたかのように。

「何故僕達じゃないといけなかったんだろう。他にも引き金(トリガー)を引ける奴なんて沢山いるのに」

少年はひどく冷めた声で言った。少年の声色に反応してか少年の手に握られている剣が怪しく光る。激しい光を帯びた剣は次の瞬間、少年の手から消えていた。

「巻き込んでごめん”唯”。それと守ってくれてありがとう」

少年の声はさっきよりも冷たく、とても弱々しかった。いつの間にか少年の頬をなにか暖かいモノが伝った。少年は堪えていた何かが切れたように泣き出した。初めて、溜め込んでいたもの全て吐き出した。荒い吐息とともに少年の口からは何か得体のしれない心が出ていく。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

少年の叫び声が響く森を静かに、一つの十字架が見ていた。

<平凡で、平和な時間>

これは一つの噂話から始まった。それまでは平凡で、平和な時間を繰り返していた。この話が出回ったのは一か月前。誰が、とはないがそれまで存在しなかった噂話が突如出回ってきた。俺のクラスでもその話はすぐに広まり、俺の耳にまで届くようになった。まるで異次元の話だ。

「裏切り者に制裁を下すナニカが出たらしい」

実にくだらない話だ。そもそもそんなものが存在するはずがない。リアリストではない俺もそう言っていた。あの事件が起こるまでは__。

 

その日も何も変わらない平凡で平和な一日だと思っていた。いつものようにクラスメイトと他愛もない会話をしていた時だった。俺の幼馴染、「明葉雪斗」が突然倒れた。それも俺達の目の前でだ。すぐに保健室に連れて行き、ベッドに寝かせた。保健の先生も「どこにも異常はない」と言っていたがその時の俺には胸騒ぎがずっとしていた。まるで何かに対して警告音を示しているかのように。雪斗は先生が両親に電話をして早退をしていった。雪斗がいなくなった後も俺の胸騒ぎは続いたままだった。胸騒ぎが続いたまま時間は過ぎていき、気が付けば下校の時刻になっていた。俺は雪斗のところに行こうと思った。教室を出ようとした時、「響也」という声に止められた。

「なんだよ、楓」

そこにはクラスメイトである「湖月楓」が立っていた。楓はいつもの笑顔ではなく、心配そうな表情を浮かべていた。

「これから雪斗のところに行くの?」

「それがどうしたんだ?」

俺がそう言うと、楓は自分の腕を強く反対側の手で握った。楓がこんな姿をするなんて珍しい。

「実は、夢で雪斗が倒れたのと響也が雪斗のところに行くのを見て・・・・・・多分だけど正夢なら、響也がこの後雪斗のところに行くと、女の子に会う筈なんだ」

「は?女の子に会う?どういう意味なんだ?」

「と、とりあえず話はそれだけだから気を付けてね」

そう言うと楓は足早に教室を出ていった。楓は何故そんなことを俺に伝えたのだろう?そんなことよりも早く雪斗のところへ行こうと俺は頭を切り替えた。

 

学校を出ると赤く輝く夕日が沈みかけていた。道にある街灯もところどころついている。車がまばらになり通行人もあまりいない。雪斗の家は俺の家から徒歩五分ほどのところにある。一度家に行き、荷物を置いていくことにした。

「雪斗大丈夫かな・・・・・・」

不安の色が入った言葉を言うと後ろから「こんにちは」と声をかけられた。驚いて後ろを振り返るとそこにはツインテールに結んだ髪を風になびかせる一人の女の子が立っていた。

「あ、あんた誰だ?」

俺は警戒を少ししながら言った。声が少し裏返り緊張しているのが分かる。

「ああ、初めまして、だよね?私は”メル”。君にこれから起こる事を言っとかないといけないんだ。近いうちにここに”クロメ”が来る。そろそろアレも目を覚ましているからね。君の幼馴染が突然倒れたのもそれが関係しているだろう。それと・・・・・」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。どうして雪斗のことを知ってるんだ⁉お前はいったい・・・・・・・」

「君の敵ではないさ。それとこれから君の下に一つの十字架が送られてくるだろう。それがこれから起こる事を解く鍵だ。こんなBadendなんて終わらせなければ・・・・・・・今の君達にしか終わらせることのできない物語だ」

”メル”と名乗った少女はそう言うとまたどこかへと消えていった。後には、状況についていけない俺が一人残されていた。

 

”メル”と出会ってから俺は黙々と雪斗の家を目指した。辺りさっきよりも暗くなり、街灯の数が増えてきた。通行人も俺しかいない状況になった。

「さっきの少女はなんだったんだ?十字架って・・・・・・・・」

「十字架」さっき少女に言われたものだ。何故十字架が鍵となるのだろう?そんなことを考えていると、いつの間にか雪斗の家に着いた。いつも通りインターホンを鳴らしておばさんが出てくるのを待つ。

しばらくすると、突然「ガチャッ」と言う音と共に玄関の扉が開いた。

「あら、響也君。久しぶりね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最終更新:2015年01月15日 18:18