システム指定なし(後にシナリオ構築のヒントを示します。ただし,準現代的な風景を持ち合わせていることには留意してください。)
この世には不思議な現象が巨万(ごまん)とある。九十九神(つくもがみ)というのもその現象の一つとして挙げてよいであろう。
長く使われ,永くは遣われなかったものは,その経緯はさておき憑代(よりしろ)となり,霊を取り込み怪奇現象を呼び起こす。
さて,君たちはオカルトマニアの友人から一つの怪異談を聞いた。
―音楽室に関連する怪奇談と言われて何を連想する？普通に考えれば,独りでに曲を弾くピアノ,
動くLudwig van Beethoven(ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン)なりJohann Sebastian Bach(ヨハン・セバスチャン・バッハ)なり
Johannes Chrysostomus Wolfgangus Theophilus Mozart(ヨハンネス・クリュストムス・ウォルフガングス・テオフィルス・モザルト)
なりの肖像画は有名だな。
まあ,今回のも言われれば納得するかもしれないが,独りでに楽器が鳴り出すんだよ。
それがピアノなりオルガンなら納得いくだろう?鍵(けん)さえ叩けば音が出るんだからな。
ところが,よ。なぜか今回は吹奏楽隊の音色が聞こえてくるんだってよ。深夜,光の漏れぬ漆黒の闇に包まれた中で,な。
誰かがやってるんじゃないかって?そんなだったら今頃こんな噂にはなってねえよ。
噂になるくらいだ,誰かが視認したんだってよ。光を向けたら,そこには誰もいないし撥(ばち)もねえ。
そのくせ響き渡る金管五重奏の重層なハーモニー,木管三重奏の甘美なメロディー,打楽器七重奏の調(しらべ)。
どうやら,音色だけは一級品。だが,その校舎,廃校になってから長い年月が経過してる。
もちろん楽器は手入れを受けていないんだからよ,音程なんてとち狂ってるよ。
そいつはあの状況をこう形容していたな,
『見えざる何かが,邪神を呼ぶかの如き狂気の音楽を奏でていた。その音色は私を虜にして
狂気の場という桎梏(しっこく)からの逃亡を困難にしたさ。
演奏は止むことなく,どんどん続く。鎮魂歌(レクイエム),円舞曲(ワルツ),回旋曲(ロンド),
即興曲(トッカータ),夜想曲(ノクターン),協奏曲(コンツェルト),器楽曲(インストロメンタル)に追走曲(カノン)。
どれも見当違いの和音を奏でて精神を蝕み,見当通りの音色を奏でて精神を癒す。
誰もあの音色からは逃れられぬ。終わった後には感動と狂気の涙が流れるよ。
最も良い曲？そうだな…木琴から始まるものだったか。あれは最高の曲だよ。
まあ,最悪の響きが谺(こだま)するがな。』
ってさ。
ところで今度,俺は行ってみようと思うんだよ,その演奏会(コンサート)とやらにな。
その開場は今夜,満月の蒼く輝く時。月は狂気の緋(あか)に変わり,それと同時に開演するらしい。
君たちは彼に感想を聞くことにして,帰ることにした。
―明日も,明後日も,明々後日も。いつまで経っても,彼の姿は見えない。音沙汰もない。
悲しみの涙を拭い,君たちは足を運ぶ。その狂気の会場へ。
――しかし,君たちも莫迦だねえ。今日の満月は,蒼いよ？
――探してみなさい？彼の骸(なきがら)は,シロフォンの下。
マリンバの下？そこは置きたかった體(からだ)があったんだけどね,逃げられたんだよ。
代わりに君たちの骸(むくろ)をそこに置こうかなぁ。犠(いけにえ)は多い方がいいからね。
シナリオ構築のヒント
○なぜ彼は死んでしまったのでしょう?
真に邪神なり死神なりを呼び寄せる儀式の犠牲となってしまったのでしょうか。
それとも,演奏を聴いて精神が崩壊してしまったのでしょうか。
あるいは,それ以外?何れにせよ,ここにこのシナリオの中核があります。
彼の手記を校舎に散在させ,それを繋ぎ合わせることで真相がPCたちに伝わるようにしましょう。
必然的に,これは校舎内を探索するシナリオとなるでしょう。でしたらいっそのこと,PCたちを閉じ込めることを忘れずに。
○楽器に霊魂が宿っているのは本当でしょうか?
何かが演奏している,などという可能性はないでしょうか?もしそうだとしたら?
その演者が友人を殺してしまったのでしょう。逃げられた人がいたことにもいくつか納得がいくでしょう。
しかし,そうだとしたらなぜ「いない」と噂になっていたのでしょう?
1つは彼が記憶を忘却させるため。1つは怪異談として昇華させるため。1つは襲われて一部の記憶がなくなったため。
様々な可能性が考えられます。
最終更新：2015年02月09日 02:50
