〝どうしたね。鴉が喋るのがそんなに珍しいかな?
 君たち人間には言語として知覚できないだけで、我々はいつもこうしてやり取りをしているのだがね。〟


〝では訊ねよう、人類諸君。

 君達が普段目にしている哺乳類や爬虫類、その他諸々の動物。果ては植物。
 彼らに『心』と呼ばれる機能が具わっていないと、人間に特有の機制なのだと主張するなら、果たして、それをどうやって証明する?

 脳髄のサイズがヒトと比べて劣るから?
 では脳が萎縮した人間、および先天的に脳に欠陥や欠落をもつ人間の場合は心を持たないことになるのかね。
 言語を持たぬから?
 我ら動物が、人間には知覚ないし理解できない領域で会話をしていないと断言できるとでも。
 振る舞いが知性的ではないから?
 知性が心の存在証明の条件を満たすか? 何の根拠にもなりはしないよ。

 アハハハハ、すまない。確かに詭弁や極論だ。
 だが、君らに愛玩されている、或いは飼い殺しにされている動物たち。資源として奪われ、汚され続けてきた植物たち。
 見た目では恭順している風の彼らが、心の底では君たち人類を嫌悪し、憎悪し、いつか絶滅させてやろうと考えていない……などと、本気で確信できるかね?〟


〝この黎明を愛しているか? 守りたいと切に願うか?
 アハハハハ、実に素晴らしい。

 その光る若さ、愚直なまでの輝き……嗚呼、とても、羨ましい。目が暗む。
 こう眩しくては、たまらなく欲しくなる。
 君の手から奪い取り、是非とも我が物にしたくなってくるなァ。
 嗚呼、人間(きみたち)の道理には悖るだろうが、しかし鴉(わたし)の生き甲斐とは、他人の珍重する宝を横から攫い、啄むことなのだよ。〟


〝おいおい、一体どうしたね。
 学が足りん、知能が足りん、精彩を欠いているぞ人間。スマホゲームのやり過ぎで脳機能が鈍ったか?

 害鳥(われわれ)ごときに苦戦するな。
 人類は現生生物の頂点、高度な社会をなす霊長類の王だろう? 最後まで諦めるな、有望な若者たちよ。もっと誇りを、君たちの輝きを見せてくれ。
 さもなくば、害鳥(われわれ)にその王座(かがやき)、簒奪(うば)われてしまうぞ。〟


イメージBGM Darker Side/Raven






〝牙鳴(ガア)、牙鳴、牙鳴。諾なるかな。吾は三千世界で啼く鴉也。

 吾はヘレブである。
 吾は八咫の烏である。
 吾はフギンでありムニンである。
 吾はバイヴ・カハである。
 吾はペンタチコロオヤシである。
 吾はストリゲスである。
 吾はグワグワクワラヌークシウェイである。
 吾はヴェルヴィムティルンである。
 吾はクイクンニャークである。
 吾はマルファスであり、ライムであり、ナベリウスであり、シャックスである。
 神話で、寓話で、並び立つ無量の世界で吾は啼く。その全てが個の吾であり、個の吾はその全てである。すなわち、巨群(レギオン)こそ吾が本質。

 さあ、鴉(わたし)はここにいる。
 ここにいるが、いながらにして、しかし何処にでも無数に偏在する。
 憎いか? 悔しいか? 殺してやりたいか? 結構、ならば存分に鴉(わたし)を殺すが良い。気が晴れたら教えてくれよ。遠慮するな、さあ、さあ! アハハハハ。〟


イメージBGM2 Raven's eyes/Honoo
最終更新:2015年03月05日 11:42