用語一覧


・第五妄想

  この世界に割り振られた、序数と属性。
  何故、他の数字ではなく『第五』でなければならないのか。
  量子力学をべースに敷くはずなのに何故、一見矛盾する『妄想』という属性が号されているのか? どう解釈するも観測者次第。

  渇望と妄想は、心の在り方という点で大きく異なる。
  前者が夜空を駈ける星の疾走とするなら――後者は極大の自重で崩壊を続けながら、存在するだけで周囲の時空を酷く歪ませる特異点である。
  閑話休題。

・心象能力

  俗な呼び方をするなら超能力。『第五の力』とも。
  心象とは、心の象(すがた)――即ち、「心の内に現れるイメージ」を指す。

  取りも直さずこの能力は、発現者の精神性(より踏み込むなら、イド・エス)と深い相関があると見られており、
  引き起こされる諸現象は、念動力(サイコキネシス)やテレパシー等に代表される従来のESPの枠組みを大幅に逸脱した複雑性と超常性を有する。
  もはやその実相は、新たな法則が支配する系の創造に近しい。

  若者を中心に世界規模で発現。
  当然、現在まで確認された能力のいずれも明らかに既知の物理法則を超越している。

  能力者は各国の秘密専門機関によって発見次第「保護」され、
  カウンセリングやセラピー等の精神分析学的アプローチを通じた能力制御法と、それに伴う道徳倫理を強制的に学ばされる。
  所定の水準まで習熟度が到達、かつ社会生活を送る上で問題がないと機関に判断されれば、幾つかの条件付きで普段通りの生活に戻ることが許される。

  …ことになっている。

曰く、高い知性を持つ人間は社交的能力に長ける。
本当に異常な精神性を有する人間はそれを正確に自覚し、なおかつ尋常な人間のようにも振る舞えるということだ。

嗚呼、誤解を避ける意味で言っておくが、異常な精神性の持ち主がイコール犯罪者とは限らない。
特異な精神構造を有意義に利用して、社会的成功を収める人間もいる。
自動車に例えるなら、本能というエンジンと、理性という制御系。人間の精神がこの二つのバランスで成り立っているのは、今更言うまで
もないことだからね。

そう、真に問題とすべきなのは次の一点。
……心象能力というのは、人間の本能的衝動の源泉たるイド・エスと接続しているということだ。


・Ψ[psi]

  読みはサイ。ギリシャ文字の一。
  心理学(psychology)と超能力(psychic)それぞれを表す語であることから、この世界では心象能力の通称として用いられる。
  ちなみに、Ψは量子力学において、系全体の波動関数を意味する記号でもある。

・『ビリーバー』

  信仰者。妄想する者。すなわち、心象能力者の通称にして俗称、或いは文脈次第で蔑称ないし尊称。
  精神的因果の一切の閉包を理想とし、自己で完結する特異点たち。
  最早それは、人の形をした小宇宙と言える。


・『カテゴリーQ』


・世界線

  物理学用語。
  アインシュタイン(『相対性理論』)等によって提唱された概念。

  我々人間の活動する四次元時空(三次元+時間の流れという一次元。空間+時間=時空。ミンコフスキー時空とも)における、粒子が移動する経路のこと。
  主にSF作品では意味を転じて、「世界の一つの可能性」といった、いわゆる平行世界的な意味合いで用いられる。
  転じすぎなんじゃないかと思うが、直感的な理解を助ける便利な用語である。

・観測者

  文字通り、事象を観測する者のこと。
  事象が観測に影響を及ぼすことはあっても、観測が事象に影響を及ぼす可能性はないと言い切れるだろうか。
  視線。視線。視線。プロビデンスの目は世界を常に観測する。

・学生集団雪山遭難事故


・カルテジアン劇場

  アメリカの認知科学者であり哲学者、ダニエル・デネットが提唱した概念。
  その内容は、

  「人間の脳の中には小さなホムンクルスが住む劇場がある。スクリーンには経験された感覚の情報が上映され、ホムンクルスはそれを鑑賞している」

  …というもの。
  要するに人間の精神や意識を説明するモデルの一つ。
  元はフランスの哲学者、ルネ・デカルトに端を発する心身二元論を批判するべく唱えられた。
  心身二元論の立場では精神を身体から独立した実体(魂みたいなもの)とし、それをホムンクルスだと比喩したのである。
  現在の神経科学では、脳は情報を時間的・空間的に分散して処理することが判明しており、統一的に情報処理をするような"ホムンクルス"は否定されている。

まあ、人間の精神や意識の出所については議論尽きせぬ領域ではあるがね。
そんなことはどうでも宜しい。
カルテジアン劇場――この概念が、この物語におけるある種の寓意になっていることの方が重大であると言明しておこう。

・量子場



・『シュガー』[Sch-ger]

  砂糖ではない。
  ――――ないが、この物語を破滅へ誘うモノの名前としては相応しい。




心という偉大なる第一元素(エンテレケイア)の前では、〝因果〟諸共、万象等しく価値を失うのだよ。
〝光輝〟を無明の闇へ葬れば、盲いた幸福で満たされる。

故に、目を瞑って閉ざすのだ。
視たいものだけを観て、踊るように躍れば良い。
汝の理想(はる)を謳う、汝だけの楽園(はこにわ)でな。啓蒙しよう、汝よいざや仰げ見よ――これが、〝真理〟だ。
最終更新:2016年02月22日 21:02