タイクーン編 序章

Chapter0 新たなるハジマリ

ここ最近はウィザードたちにとって比較的だが穏やかな時間が流れていた。
人間をエミュレイターへと変化させるという一連の事件の首謀者である赤の乗り手が
ウィザードたちにより撃退されたためである。
これにより人間エミュレイター化事件は数をめっきりと減らした。

だがしかし、忘れてはいけない。これはあくまで一つの事件であり、
世界を狙う魔の手は数多に伸びているということに・・・


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Chapter1 『タイクーン』

 秋葉原の一角にあるコスプレ喫茶「にゃんにゃん」、その2階に存在するユニオン本部。
その日の朝9時に、ユニオンのリーダーであるアンはメンバーをそこに呼び出していた。

部屋にはアンの他に
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ユニオンメンバーのまとめ役であり実質的なサブリーダーであるミシェル・ブラン、
(ちなみににゃんにゃんの従業員を務め料理掃除の命綱を握っている)
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9歳にしてブレインを勤め、戦局を一変させる程の強化を付与する力を持つアテネ、
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輝明学園からの協力メンバーであり、異常なほどの虚弱体質と蘇生能力を持つ合礼乱火(あいれいらんか)
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がそれぞれ思い思いに待機している。


そこに扉を開きながら

「こんちは。今回はアラスカだったからお土産らしいのはないですよ」
と入ってきたのは

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医療の神、アクレスピオスの血を引く癒し手でありユニオン常駐メンバーの一人、榊劾(さかきがい)。
ワイシャツ一枚に首から提げたカメラ、薬品などを詰めたリュックを背負い各地を回る冒険者でもある。
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彼は部屋の隅に荷物を降ろしながら、今回撮影した写真をチェックし始める。


それから数分が経ち9時になろうかという時に

「せ、セーフ・・・間に合ったのです」
ばだん、とドアを開けて、齢14~15程の見た目の少女が息を切らせて入室する。

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彼女は妻夫木伊波(つまぶきいなみ)。
空気中の水分と自身の血液を結合させて操る吸血鬼の性質を持つ女性であり、
とある事情から肉体の成長が停止しているため外見が14歳のままである。     ちなみに実年齢は34。
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伊波:「妻夫木伊波、ただいま到着したのです! みんなおはようなのです」

ミシェル:「おはようございます」

劾:「どうも、伊波さん。・・・で、他に面子はいるんですかね」

皆が挨拶を交わす中、アテネだけが神妙な面持ちのまま顔を上げようとしない。
そのことに伊波と劾は気づき、

伊波:「どうしたのです?便秘なのです?伊波も一昨日からヤバイのです」
劾:「?・・・アテネさんは具合でも悪いんですかね」

と声をかける。それを静止するように

アン:「まあ・・・詳しいことは追って説明する、まずは掛けてくれ。」

と座るようにうながす。

その様子から劾の目つきが少し真剣味を帯び、伊波もアテネを気にしながらソファーに座る。

乱火:「厄介なことがまた起きたようですね・・・」
と乱火も新たなる問題が発生したことを悟り渋い顔をした。

全員が席に着いたことを確認し、アンは
アン:「さて・・・早速だが本題に入ろう」
そういいつつ煙草の煙を大きく吐出す。

それはまるでため息をつくかのようであり、その様子を見た伊波は居住まいを正して背筋を伸ばす。

少し間をおき、
アン:「先日、輝明学園の学生らによってアステートの撃破、並びに四騎士が一人、ブラン・キリエルヒアが撃退されたのは知っているか?」
とアンは切りだした。

伊波:「人伝てにですが、話だけは聞いたことがあるのです」
劾 :PLが知らないので、「・・・俺は初耳ですね。ちょいと耄碌したかな」
乱火:「いえ、在校生ですが色々と忙しく、知りませんでした・・・」

アン:「輝明学園の学生らが四騎士を討つ、これは史上類を見ない快挙だ」
アン:「本来ならば素直に喜びたいところだが・・・」
そこでアンは言葉を濁す。

劾 :「・・・喜べない何かがありましたか?」

アン:「彼らが撃退した白の乗り手は、力の2/7が解放された状態のものだ」
アン:「何が言いたいかはわかるか?」
アンはそう言ってメンバーを見渡す。

伊波:「白の乗り手がまだ余力を残している上に赤の乗り手すら、そうだった可能性もある・・・ですか?」
乱火:「5/7が残っていると?」

アン:「そうだ。加えて言えば、残りの5/7の力を持った肉体は、別の場所に解き放たれてしまった」

劾:「・・・よろしくないですね。非常によろしくない。実質、半分以上の力が解き放たれたわけですか」
伊波:「前向きに考えれば、白の乗り手の力をそいだとも言えないこともないですが・・・手放しで喜べる状況でもないのです」

アン:「奴の権能は統治・支配」
アン:「赤の乗り手の様に人間を直接戦火に巻き込むことはないが」
アン:「政治・経済の面から人間を支配し、惹いては争いを起こしたり、国ごと滅ぼしたりする」
アン:「ある意味赤の乗り手より性質が悪い」

乱火:「国家内外の紛争が起きるやもしれませんね・・・」
伊波:「力押しだけじゃ通じない、のですね・・・」
伊波:「それに赤の乗り手、白の乗り手が目覚めた以上・・・残りの二人の騎士が台頭するのは時間の問題なのです」
劾:「元々、戦争に移行するための前段階としての支配の権能であるとも、聞いています」

アン:「奴は人間に優れた統治能力を与え、人間社会を陰からコントロールする」
アン:「そして、ここ最近、急激に台頭してきた国家がある」
アン:「果たして・・・これは偶然と呼べるのか?」
アンは考えこむように煙草を持ちながら口元に手を当てる。

伊波:(アテネちゃんのさっきの表情は・・・これが原因なのです?)
と伊波はほんのりと考える。

乱火:「調査の必要がある・・・でしょうか?」

アン:「ロンギヌスから・・・正式に依頼を受けた」

劾:「・・・ロンギヌスから、ですか」
アン:「あっちは今別件(カイゼルクラウン顕現)の対処で手一杯だからな」

アン:「その国家の名を"タイクーン"」
アン:「小規模ながらも資源と観光産業で栄えていたが、ここ最近の経済成長が著しい」

伊波:「そういえば、ニュースで経済成長が著しいとかで」
伊波:「周辺の国のみならず、アメリカやロシア、中国などの大国家も注目しているとか、観た気がするのです」
乱火:「前触れも無く、だと変ですね」

アン:「我々も近隣で活動するウィザードを既に送り込んでいるが」
アン:「やはり私直属のウィザードを調査員として派遣したい」
アン:「白の乗り手が目覚めた以上、残された時間はそう多くない」
アン:「引き受けてくれるだろうか」
その彼女の目は今まで見たことも無いくらいに、奥に燃える何かがあった。

乱火:「期間はどの位を想定していますか?」

アン:「勿論お前たちの生活もあるだろう、生活に著しく支障をきたさない程度に、本部から派遣するメンバーは適宜変えていく」

伊波:「それを聞いて安心したのです。医科研から長期間離れるのはマズいので」
伊波:「ユニオンメンバーとして、その任務に従事するのです」
乱火:「まあ、任務の合間に外国の洞窟を探検する、というのもいいでしょう。 長期滞在であっても行かせて頂きますよ」
榊 劾:「俺も行きますよ。・・・こちらから頼みたいくらいですよ。第一俺や良太さんなんかは、これが仕事ですしね。」

その言葉を聞いたアンは
アン:「ありがとう」
と感謝の言葉を口にした。

ありがとうという言葉が出たこと自体レアケースでであるため伊波はポカンとした表情を見せる。

榊 劾:「・・・こちらこそ、ありがとうございます。これで俺は、また世界を知ることができますから・・・」
乱火:「何を水臭い。 これが私たちの仕事ですよ」

アン:「四騎士は何が何でも駆逐しなければいけない」
アン:「今回はミシェルを同行させよう、お前たち四人なら、色々と安心できる」

伊波:「了解なのです」
そう返事をする傍らで

ミシェル:「アテネ、私がいなくても寝る前は歯を磨くのですよ」
とアテネの世話役であるミシェルがアテネに注意をする。

アテネ:「うっさいな・・・」
アテネはどこか寂しそうに返事すると
過去にメンバーの一人である金森未来(かなもりみく)がエミュレイター化した際に回収した黒い欠片を弄ぶようにいじった。

乱火:「虫歯になったらショック死するほどの痛みだそうですよ、幸い体験したことないですけど」

伊波:「・・・アテネちゃん、ミシェルちゃんが居なくなるから寂しかったのですね(ひそひそ)」
と伊波はガイに耳打ちする。

榊 劾:「ですかね。・・・ミシェルさんにべったりですから(ひそひそ)」
伊波:「便通が止まってるわけじゃなさそうで安心したのです。伊波はもうマジでやばいですが(ひそひそ)」
榊 劾:「・・・いい薬草がありますよ(ひそひそ)」

アン:「さあ、準備が整い次第、出発だ。現地までの交通手段は手配しよう」
榊 劾:「と・・・。ありがとうございます。」

こうしてウィザードたちは異国へと向かう、その先に何があるかを知るために・・・・・
最終更新:2015年09月20日 22:49